母が愛した“土瓶蒸し”
普通、土瓶蒸しは、
秋の食卓にのぼるメニューの代名詞です。
特に、松茸の香りを楽しむメニューとして、
秋に、一度は味わいたいと思うものです。
そんな土瓶蒸しですが、
大阪の商家に育った母が、
鱧と松茸が入った土瓶蒸しを、
食べたいと言っていたのを、思い出します。
夏の旬と、秋の旬が、一つの器に。
今の私たちの食生活からみると、
なんと贅沢なもの、と思うのですが、
松茸が、今ほど珍重されていなかった事を考えると、
季節を味わう醍醐味を感じるメニューのひとつだったのでしょう。
鱧にしても、夏になると近海魚の中心として、
魚屋さんの店頭に並んでいたのでしょう。
しかし、気候の変化や自然環境の変化など、
いろいろな影響で、商品の価値が変わり、
普通に食べられていたものが、
高級なものに変わっていきます。
夏の名残の旬と、秋を感じる旬。
季節の移ろいを感じる味わい。
そんなメニューを楽しめた時代を羨ましく思うのは、
単なる郷愁でしょうか。
秋刀魚や鯵にしても、漁獲量が落ち、
大衆魚じゃなくなる可能性を秘めています。
いつ、何が起こってもおかしくない時代。
私たちも、商品や消費を見るだけではなく、
自然環境を考えた視点が、求められています。